ホールにおける音響システムの構成とは。検討する際のポイント
コンサートやフェス、演劇などを開催するホールで重要となるものが、音響システムの設計です。音響システムは複数の音響機材を組み合わせてひとつのシステムとして構成します。客席での快適かつ高音質な響きを実現して観客の満足度を向上させるには、ホールに適した音響システムの設計が重要です。
音響システムの導入・更新を検討しているご担当者のなかには、「ホールの音響システムはどのように構成されているのか」「どのように機材を選べばよいか」と気になる方もいるのではないでしょうか。
この記事では、ホールの音響システムを構成する5つの機材と検討する際のポイントについて解説します。
目次[非表示]
- 1.ホールの音響システムを構成する機材
- 1.1.➀マイク
- 1.2.②オーディオミキサー
- 1.3.③オーディオイコライザー
- 1.4.④パワーアンプ
- 1.5.⑤スピーカー
- 2.ホールの音響システムを検討する際のポイント
- 2.1.①ホールの使用目的を明確にする
- 2.2.②ホールの建物音響を考慮する
- 3.まとめ
ホールの音響システムを構成する機材
ホールでは、人の声や楽器の音を拾って客席で心地よく聴くための音響システムが必要です。基本的な音響システムは、以下の機材で構成されています。
➀マイク
マイクは、音を電気信号に変換する電子機器です。スピーカーで音を出力してホールの隅々まで歌や楽器の音が聞こえるようにしたり、音を録音したりする役割があります。
電気信号に変換する原理や用途の違いなどによってさまざまな種類がありますが、ホールで用いられる代表的なマイクには以下が挙げられます。
▼代表的なマイクの種類
種類 |
特徴 |
主な用途 |
ダイナミックマイク |
電源が不要。周囲の雑音を拾いにくく、衝撃や湿気への耐久性が高い。 |
音楽ライブ、スピーチ |
コンデンサーマイク |
耐久性は低いが、高感度で微細な音を捉えられる。 |
レコーディング |
リボンマイク |
自然で滑らかな聞こえ方の音を捉えられる。 |
レコーディング、ボーカル |
また、マイクには“どの方向から音を拾うか”といった指向性によって3つの種類に分けられます。捉えたい音に合わせて指向性を選ぶことが重要です。
▼マイクの指向性
種類 |
音の拾い方 |
主な用途 |
単一指向性 |
マイクの正面の音を拾う |
ボーカル、楽器、講演 |
全指向性(無指向性) |
360°すべての方向から均等に音を拾う |
アンビエント、舞台、演劇 |
双指向性(両指向性) |
マイクの正面と背面の音を拾う |
対談、デュエット |
②オーディオミキサー
オーディオミキサーとは、マイクまたは楽器などから入力された複数の音をミックスして、聴きやすいように音質やダイナミックレンジ(音量の幅)などを調整する機材です。
音楽ライブでボーカルと楽器による音のバランスを調整したり、演劇・ミュージカルで演者の声・楽器の音を拡声したり、エフェクトをかけてリバーブやディレイの音響効果をつけたりする役割があります。
▼オーディオミキサーの主な種類
種類 |
概要 |
アナログミキサー |
入力された音声信号をアナログ音源のまま音量・音質を調整するミキサー |
デジタルミキサー |
入力された音声信号をデジタルデータに変換して処理・出力するミキサー |
パワードミキサー |
アナログミキサーにパワーアンプが内蔵されており、スピーカーに接続して音の出力ができるミキサー |
アナログミキサーは、つまみやフェーダーの位置が分かりやすく直感的な操作がしやすいことが特徴です。デジタルミキサーはつまみやフェーダーがさまざまな機能を兼用しており、多様な音質調整を行えます。
パワードミキサーはスピーカーに接続して電源を入れるだけで音が出力されるため、音量・音質の調整を簡略化できる特徴があります。
③オーディオイコライザー
オーディオイコライザーとは、特定の音について周波数帯を増強または減衰して音色を調整する機材のことです。
ホールの環境や音楽に応じて聞こえ方を調整したり、ノイズ・ハウリングを防いで聴き心地をよくしたりする役割があります。単体の機材として導入する場合もあれば、ミキサーのチャンネルに内蔵されているタイプもあります。
▼オーディオイコライザーの主な種類
種類 |
概要 |
グラフィックイコライザー |
特定の周波数帯がフェーダーごとに分割されており、決まった範囲で増強または減衰を行える |
パラメトリックイコライザー |
高音域・中音域・低音域で狙いたい周波数帯をピンポイントで調整できる |
グラフィックイコライザーは調整できる周波数帯が決まっているのに対して、パラメトリックイコライザーは自由に周波数帯域を設定できるため、よりきめ細かな音づくりが行えます。
④パワーアンプ
パワーアンプとは、ミキサーで調整した音声信号を増幅させて、スピーカーで音が鳴るようにする機材です。スピーカーが駆動する能力に応じたパワーアンプの出力を選んで、ホールの規模に適した音量の調整を行う役割があります。
▼パワーアンプの主な種類
種類 |
概要 |
ステレオパワーアンプ |
1台で2系統のボリュームを調整できる。主にメインスピーカーのLとRで音を鳴らす際に用いられる。 |
4チャンネルパワーアンプ |
1台で4系統のボリュームを調整できる。メインスピーカーのLとRに加えて、フロアモニター、サブウーファーなどの調整を行える。 |
ハイインピーダンスパワーアンプ |
ハイインピーダンススピーカーと組み合わせることで、1つのラインで複数のスピーカーと接続して音を鳴らせる。 |
デジタルパワーアンプ |
入力された音声信号をデジタル信号に変換して増幅したあと、再びアナログ信号に戻してスピーカーで音を鳴らす。 |
デジタルパワーアンプは、ほかのパワーアンプと音声信号を増幅させる仕組みが異なるため、消費電力を抑えられるほか小型・軽量となっている特徴があります。
⑤スピーカー
スピーカーは、アンプによって増幅された音声信号を振動板によって音に変える機材です。ホールで行われる演奏や舞台の音声などを客席の隅々まで届ける役割があります。
振動板が内蔵されたユニットの構造やそれを格納するエンクロージャーの形状・材質などによって、再生される音質・音域が変わります。
▼ユニットの構造
種類 |
概要 |
コーン型 |
円錐形の振動板(コーン紙)を振動させて音を出す仕組み。深さによって音域が変わる。 |
ホーン型 |
振動板から出た音をラッパ状のパーツによって増幅する仕組み。再生能力が高く、音が前方向に広がりやすい。 |
ドーム型 |
半球状の振動板を振動させて音を出す仕組み。コーン型よりもまっすぐに遠い距離まで音を届けられる。 |
リボン型 |
磁石内に設置した金属製の振動板で音の信号を伝えて音を出す仕組み。高音域で繊細な音を発する。 |
▼エンクロージャーの種類
種類 |
概要 |
密閉型 |
筐体にユニットが密閉されており、後方から音を逃がさないつくり。音に迫力があり、キレのある低音となる。 |
バスレフ型 |
筐体の前面または背面に穴が開いているつくり。密閉型よりも低音が強調され、重量感と伸びのある音になる。 |
ホールの音響システムを検討する際のポイント
ホールの音響システムを設計する際は、施設の規模や形状、用途などに応じて各機材の種類を検討する必要があります。
①ホールの使用目的を明確にする
どのような目的でホールが使用されるのかを想定して、必要な音響システムの構成を設計することが重要です。
▼使用目的に応じた音響設計の例
使用目的 |
音響設計の例 |
音楽や演劇の鑑賞 |
音声・音楽が客席へ均一に届くようにするとともに、臨場感や世界観を演出するための音量・音域のバランスを考慮する。 |
講演会や式典 |
音声がクリアに聴こえるとともに、録音がしやすいように残響を抑える。 |
音楽や演劇の鑑賞をメインとするホールでは、音の広がりと豊かさを演出するためにほどよい残響が出る音響空間をつくる必要があります。
ただし、残響が長くなると音声や演奏の妨げとなる可能性があるため、可変残響装置や反射板などを用いて響きを調整することがポイントです。
②ホールの建物音響を考慮する
ホールの音響システムを設計する際は、施設そのものが持つ建物音響を考慮することもポイントの一つです。
建物音響とは、建物本体が持つ音響の特性を指します。ホールの音響は、建物の構造や材質などによって左右されるため、建物の設計を踏まえて音響システムを構築する必要があります。
▼建物音響を考慮する項目
- 建物の形状
- 遮音構造
- 防音材・吸音材の種類 など
東京通信電設株式会社での会場ごとにおける音響設備の導入事例はこちらでご覧いただけます。併せてご確認ください。
まとめ
この記事では、ホールの音響システムについて以下の内容を解説しました。
- ホールの音響システムを構成する機材
- 音響システムを検討する際のポイント
ホールの音響システムを構成する機材は多岐にわたり、種類や組み合わせ方によって音質・音色が変わります。
歌や楽器の音、人の声などをより鮮明に心地よく聴こえるようにするには、ホールの使用目的、建物環境を考慮して音響システムを設計することが重要です。
東京通信電設株式会社の『トータルソリューション』では、ホールをはじめとする施設の音響システム設計からメンテナンスまで一貫してサポートしています。官公庁やアリーナクラスの大型施設において70年以上の実績で培った技術・ノウハウを生かして、理想的な音響空間を実現します。
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